世の中は、ムチャ振りする人であふれている – 日本経済新聞

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 ここまで、さんざん「振れない人が多い」と書いておきながら、こんなことを言うのもなんですが、世の中は、仕事をムチャ振りする人で溢れています。これは本当です。

 皆さんも、社会に出て、「なぜ、こんなにムチャ振りされるんだ」と憤った経験が何度もあるはずです。

 でも、「振れない人が多い」ことと「ムチャ振りをする人が多い」こととは矛盾しているわけではありません。極論すれば、ビジネスパーソンには、本質的に仕事を「振れる人」「振れない人」の2タイプしかいないからです。

 このように説明すると、上役や管理職が振れる人、そうでなければ振れない人と誤解されてしまうでしょうか。

 でも、この2つのタイプは、組織内における階層の違いとは関係ありません。人はどの階層にいようと、「振って、振られて」という存在です。だから、心のありようの問題です。

 そうは言いながら、ここまで読まれた方の中には、「振らない人が多い」と説明してきたことに、ある種の違和感を持った人もいるかもしれません。それは、おそらくこの記事を読んでいる方の多くは、上から、横から仕事を振られまくっているのに、自分は振る相手がいない、あるいは上手に振れないことに悩んでいるからではないでしょうか。

 その数自体はあまり変わらなかったとして、振らない人より、振る人のほうが目立つ存在です。

 振らない人(抱え込む人)は、一部の「振りませんでした、そしてできませんでした」という社会人失格なケースを除いて、同僚と愚痴をこぼし合うことはしても、周りに迷惑をかけずに苦しんでいることが多いため、注目を集めることはあまりありません。

 一方で、振る人の場合、(当たり前ですが)必ず他人を巻き込みます。しかも、「振り上手」よりも「振り下手」のほうが割合としては多くて、やり方として間違ったムチャ振りを連発させています。そのため、周囲からは反感を持って見られてしまいます。だから、「なんで、ムチャ振りする人ばかりなんだ」と思われるのです。

 間違ったムチャ振りをする側も、先ほど紹介したような「他人の手柄を横取りする」タイプの人間以外は、上手に振れないことに悩んでいます。自分でも、部下や後輩の心証を悪くする、あるいは精神的にダウンさせるとわかっているのに、仕事上の必要性から、しぶしぶムチャ振りをしています。

 ここで白状しておきますが、筆者自身も「また、ムチャ振りして」と言われることがよくあります。「振り下手」ではないと思いたいのですが、やはり仕事は振っています。

 ただし、ムチャ振りの仕方には、上手、下手はありますが、本質は少しも違いません。

 では、ここで言う「ムチャ振り」とは何でしょうか。そこから探ってみましょう。

改めて、ムチャ振りとは何か

 端的に説明します。ムチャ振りとは、相手が想定していないタイミング、内容で仕事を振ることです。「まあ、この仕事は自分に来るな」とわかっているような場合は、ムチャ振りとは呼べません。

 たいてい納期までの時間がきわめて短く、内容がざっくりとしていたり、あるいはまだ固まっていない可能性もある。振った側の要求はすごく曖昧で、自分なりに判断してやらないといけないことも多い。さらに、なぜその人に振るのか、その理由も曖昧だったりします。

 そのうえ、切羽詰まっていてノーと言いづらい状況で、「君にぜひお願いしたい」と振られることもあります。「あなたに断られても代わりがいるけど」ではなく、「あなたに断られたら、もうおしまいだ」という状況。つまり断ると、相当にマズいことになる。当然、「私がやるしかないですよね」となります。

 たとえば、第1回で紹介したテレビの情報番組を思い出してみてください。司会者に、「どう思いますか?」とムチャ振りされたコメンテーターが、「別に、何も言うことはないですね」と答えたら、これは事故でしょう。

 当然、振られた側の人間としては「なんで今? もう少し早く言ってくれれば……」と文句のひとつも言いたくなります。「待ってました! 私はやる気満々です」という人はそうそういないというわけです。

 では、振り上手な人は、どうやって「ムチャ振り」を成功させるのか。答えは簡単。まず、ムチャ振りをされたら「待ってました!」と思う、数少ない人を見つけるのです。

 「そんな人はいるのか?」と疑問に思われたかもしれません。でも、確かに「ムチャ振られ好き」はいるんです。しかもこの人たち、かなり仕事ができます。将来も有望です。ムチャ振りの仕方さえ間違えなければ、高い成果も望めます。

 では、その貴重な「ムチャ振られ好き」は、どんな人たちなのでしょうか。

世の中は、指示をされたい人が8割

 いきなり、ややこしい話をしますが、人間は自由が好きではありません。抑圧された人間の歴史は、自由を獲得する戦いの連続でした。ところが、いざ獲得してみると、何か不安になるのです。

 なぜ人は会社に入りたいと思うのか。それは本来的に、人間が命令をされたい動物だからとも考えられます。自分の頭だけで考えるのは、面倒だし、不安があります。

 世の中のビジネスパーソンは業種・業界を問わず、「言われたことをしっかりやる人」と「自分で仕事を探してつくっていく人」に分けるとすると、やはり、「言われたことをしっかりやる」タイプが多そうです。

 ビジネスの世界では、よく「2・6・2の法則」などと言われます。組織は、2割の優秀な人、6割の普通の人、2割のダメな人から構成され、優秀な2割の人が残りの8割の人たちを引っ張る、またはほとんどの収益を稼ぐという有名なあれです。

 では、優秀な2割の人ばかりを集めると、超優秀な組織になるかというと、そんなことはないようです。優秀な人ばかりを集めたはずの組織でも、「2・6・2の法則」に適応してしまい、結局、8割は優秀でなくなってしまうとも言われます。

 こうした考え方は、「大部分の数字は一部の要因によって決められる」というパレートの法則や、働きアリや働きバチのうち一生懸命働くのは2割程度でしかないという研究などをもとにしたビジネスの経験則でしょう。でも、多くのビジネスパーソンにとって、納得できるものではないでしょうか。

 また、参加者が大勢いるときには、自分で考えること、働くことをサボりたくなる、という「社会的怠業」も有名です。

 つまり、人間はもともと、なるべく他人に頼りたい、指示をされたいという欲求を持っているようなのです。そして、素質としては、ほとんどの人がムチャ振りをされることが好きだと言えます。

 最近の若い人たちを見ていると、「言われたことはしっかりやる」という教育を受けてきたようで、「今日中にこの仕事をまとめてくれ」ときちんと言われればできます。

 しかし、「適当にまとめておいてくれ」とか「君のアイデアを盛り込んで、面白い企画を作ってくれ」と言われると困ってしまう。「適当って?」「面白い企画ってどんな?」となってしまいます。

 これを「今日の7時までに、君が考えた企画を3人に見てもらうように。それで全員からOKが出たら帰ってもいいよ」と伝えれば、きっちり仕事をしてくれる。そこまでしないと動けない人たちが、実際に増えているように感じられます。

 つまり裏を返せば、ムチャ振りする人は現代においては貴重な存在で、振られる側にとっては「チャンスを与えてくれる人」でもあるのです。振られた瞬間は苦々しく思い、実際に不満を口にしたとしても、その仕事が楽しかったり、自分を成長させてくれるとわかっていれば、最後までやり切れるものです。

 振られて文句を言うのは、あまりにも急に、かつ気安く振られたことでプライドが傷つけられただけというケースもあるでしょう。そういう人でも、本当のところは嬉しく思うはずだったのに、という場合も多いのです。

 そのためにも、きちんと段取りを組み、「この通りにやってね」と振ってあげるべきでしょう。

 とはいえ、「ムチャ振り」は、そもそも説明をする時間があまりなかったり、納期が短かったりすることが多々あります。そんなときは「ゴメン、うまく説明できないけどこれでやって」と振るのも手です。

 乱暴に見えますが(実際、乱暴ですが)、「頼りにしているよ」的なニュアンスが出せれば、振る相手のポテンシャルによって、それくらいのレベルのムチャ振りをしても大丈夫かもしれません。

◇   ◇   ◇

高城幸司(たかぎ・こうじ)
経営コンサルタント。セレブレイン代表取締役。1964年東京生まれ。86年同志社大学卒業後、リクルートに入社。6年連続トップセールスに輝き、伝説の営業マンとして社内外から注目される。起業・独立の情報誌「アントレ」を創刊して編集長を務めたのち独立。現在は人事コンサルティング会社セレブレインをはじめ、3つの会社を経営する。

[この記事は2014年7月29日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]

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