ヘッジファンドのレバレッジに偏見を抱かせた「事件」とは? – 投信1

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ヘッジファンドといえば、「てこの原理で自己資金の何十倍ものリスクを取っている」、つまりレバレッジを活発に活用しているイメージがあるようです。

さらに、レバレッジといえばFX取引では数十倍のレバレッジを効かせることがあると聞くので、ヘッジファンドのレバレッジというのは、ことさらすごいことになっているはずだという考えに至るのかもしれません。

しかし、実際にはヘッジファンドの平均的なレバレッジは1.5〜2倍程度と言われています(出所: National Bureau of Economic Research、2011年2月)。これは、「意外と小さいな」と感じる水準かと思います。




身近なところにもあるレバレッジを利用した取引

レバレッジを専門的に分類すると、グロス・レバレッジ、ネット・レバレッジ、ロング・オンリー・レバレッジ等に分けられます。

グロス・レバレッジは、ロング・ポジション(買い持ち)と、ショート・ポジション(売り持ち)の合計の大きさが、投資家から託されている運用資産全体に対してどのぐらいの比率であるかを見る指標です。一方、ネット・レバレッジは、ロングとショートの各ポジションを相殺した結果残るポジションの大きさを見ています。

一般的に、「ヘッジファンドのレバレッジ」と言った場合は、グロス・レバレッジに言及していることが多いようです。

「レバレッジなんて怖い、自分には縁がない」とお感じの方もいるでしょう。しかし、一般的な金融商品である住宅ローンもレバレッジを利用した取引です。

6,000万円の物件に対し、自己資金600万円で残りはローンを借りたとすると、自己資金の10倍のレバレッジを取る住宅売買取引をしたことになります。そう考えてみると、レバレッジも意外と一般的な仕組みなのではないでしょうか。

ちなみに、10倍ものレバレッジを取るヘッジファンドを見つけることは困難だと思われます。

ヘッジファンドのレバレッジに対する誤解を招いた事件

こうしたヘッジファンドとレバレッジの関係について、偏ったイメージができたきっかけとなった事件が1990年代にありました。

それは、かつてドリーム・チームともてはやされたLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)の破綻に起因した金融市場の混乱が、世界中に強烈な印象を残したことです。

ヘッジファンドは事業会社であるため、事業環境が暗転すると一般企業と同様に倒産リスクが高まり、最悪の場合破綻に至ります。ヘッジファンドの破綻というのは特別な現象ではありません。一般企業と同様に、良いヘッジファンドは⻑期にわたって活躍し、成績不振のヘッジファンドは退場させられるという新陳代謝が存在します。

LTCM破綻の原因は、異常な水準のレバレッジが問題だったと言われています。一説には、当時LTCMは最大で自己資金の28倍程度のレバレッジをかけていたと言われています。つまり、仮に自己資金がわずか4%弱でも、自分たちの思惑と逆の方向に行ってしまうと一気に自己資金が消滅してしまう状況でした。

このLTCMは天才集団と呼ばれ、投資家や金融機関のみならずメディアの注目を集めました。特に、巨額なレバレッジをかけたヘッジファンドの存在を最も喜んだのは、投資銀行でした。

投資銀行はLTCMに対して資金の貸付、ブローカー業務などで多額の収益機会に恵まれたのです。LTCM破綻の要因は投資銀行からの資金供給をもとに、巨額のレバレッジをかけ、無謀とも言えるリスクを取っていたことにあると考えられます。

この問題があまりにメディアを賑わせたことが、全てのヘッジファンドはLTCMのように巨大なレバレッジを使用していると誤解されるに至った一因と考えられます。しかし、LTCMの破綻はヘッジファンド戦略の問題ではなく、無謀なレバレッジが問題でした。

LTCMが破綻することで、LTCMが構築していた膨大なポジションが解消されました。解消の動きが巨大かつ急速であったため、それまでのバランスを崩す形で金融市場が混乱してしまったのです。

リーマンショック時に異常にレバレッジを増大させた投資銀行

リーマンショックが発生した時も、金融セクターで過剰なレバレッジを取っていたことが問題となりました。その文脈で、「ヘッジファンドもすごいレバレッジだったんでしょ?」と考えたくなるかもしれませんが、実際はどうだったのでしょうか。

前出のNational Bureau of Economic Researchの研究によると、ヘッジファンドのレバレッジ平均値で最高水準をつけたのは、リーマンショック時ではなく2007年6月で、平均値は2.6倍でした。ヘッジファンドはリーマンショック発生前後における市場の揺れが大きくなる段階でレバレッジを落とし、リスクを削減してきたのです。

一方、派手にレバレッジを増大させたのは投資銀行でした。ヘッジファンドの平均値が最高水準をつけた2007年6月、投資銀行のレバレッジ(バランスシート全体 vs. 株式時価総額)は10.4倍、最高水準をつけたのは金融危機最中の2009年2月で40.7倍という異常な状況でした。

我が世の春を謳歌した投資銀行ですが、その背景は過度なレバレッジを活用したビジネスがうまく行っていた時期が存在していたためでした。「ヘッジファンドのレバレッジ」に関しては実際とは異なるイメージが先行しているきらいがありますが、冷静に向き合い、評価する必要があるでしょう。

ピクテ投信投資顧問株式会社 小田嶋 康博



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