風雲児アンダーアーマーが描く野心的な未来予想図 – BIGLOBEニュース – BIGLOBEニュース

Home » 03マーケティング » 風雲児アンダーアーマーが描く野心的な未来予想図 – BIGLOBEニュース – BIGLOBEニュース
03マーケティング, 3C コメントはまだありません


 今年(2017年)1月に米ラスベガスで開催されたCES(家電見本市)。

 ショーの主役交代を強烈に印象付けたキープレーヤーがGPU(画像チップ)メーカーのエヌビディア(NVIDIA)とスポーツ用品製造業のアンダーアーマー(UNDER ARMOUR)の2社であることは広く衆目の一致するところであろう。

 かつて液晶テレビやスマートフォンが花形だった家電の見本市の大舞台において、エヌビディアは独自開発した人工知能(以下AI)を武器に自動運転サービス市場へ、アンダーアーマーは「IoTを活用したウェルネスとフィットネスサービス業」へ参入することを、それぞれの基調講演の場で高らかに宣言したのである。

 両社に共通する点は、本来は「家電」というコンシューマを相手とする業界とは距離のある存在でありながら、ともにAIやIoT技術を活用することで企業の「なりわい」を大胆に転換することを経営トップの強い意思で推進しようとしているところにある。

 エヌビディアについては今年3月に寄稿した「自動運転とAIの到来が描く『製造業に不都合な未来』」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49411)で詳しく書いたので、今回はアンダーアーマーの「なりわい」変革について追いかけてみることにしたい。

「売り切り型ビジネス」から「新たなタイプのサービス業」へ

 米国メリーランド州ボルチモアに本社を置くアンダーアーマー社。

 わずか創業20年でスポーツ用品企業としてナイキ、アディダスに次いで世界のトップ3に成長した。

 その名の通り、ユニフォームの下に着る、身体に密着したタイプのアンダーシャツ(ユニフォームの下に着る鎧=アンダーアーマーがブランド名の由来)を流行らせたことで、スポーツ用品業界でもひときわ異彩を放つ存在だ。

 MLBのクレイトン・カーショー、テニスのアンディ・マリー、水泳のマイケル・フェルプス、アメフトのトム・ブラディなど数多くのトップアスリートと専属契約を結ぶなどマーケティング活動もアグレッシブである(2020年にはMLB全チームの公式ウエア企業になることでも知られている)。

 ちなみにアンダーアーマーのブランドビジョンは「I WILL WHAT I WANT」(自分が望む存在になる:和訳は筆者)であり、お客さま自身の成長実感というエクスペリエンス(ブランド体験)がブランド提供価値のエッセンスになっているところがポイントである。

 CESの基調講演でケビン・プランクCEO(かつてはアメフトの花形プレイヤーだった)が熱く語ったキーメッセージは「Data is The New Oil」(データこそが事業成長の新しいエネルギーだ)。

 アンダーアーマーは自社製品にセンサーチップを内蔵し、お客さまの生体データ(心拍数や血圧など)とAIを連携させることで、お客さまの運動量や体調の把握・管理・活動支援までをワンストップで行うことで「ウェルネスとフィットネスを提供する企業」という新たな「なりわい」を構築しようというのである。

アンダーアーマーのIoT新サービスの理想像「Connected Life」

 ケビン・プランクCEOが基調講演のプレゼンテーションで披露した「ウェルネスとフィットネスを提供する企業」の「ありたき姿」(理想像)についてはYouTube上で閲覧することができる。

 お客さまはUA HealthBox機器(睡眠中と日中の生体データを測定するリストバンド、トレーニング中の生体データを測定するハートレート、トレーニングの進捗を確認する体重計/体組成計の3点)と呼ばれるギアを使って生体データを24時間・365日、アンダーアーマーに提供する。

 アンダーアーマーは収集したデータを外部データ(ビッグデータ)と統合してAI で解析し、スマートフォンの専用アプリを通じて「お客さまの近未来のエクスペリエンスの予測と改善提案」という形の情報サービスに加工してお客さまにフィードバックする。

 何はさておき、このサービスで秀逸なのは、「お客さまの気持ちの変化」(どんなに良い気分で一日を過ごせるか)がKGI(Key Goal Indicator)として中核に位置付けられており、そのためのKPI(Key Performance Indicator)として「睡眠」「栄養」「フィットネス」「日常活動」があるというひも付けがなされていることである(図1参照)。

 お客さまの気持ちの変化に寄り添うことがブランドの差別化の最大のドライバーになる時代、「いかに良い気持ちで毎日を送るか」にフォーカスしたアンダーアーマーのこのサービスは、エクスペリエンス・デザインの観点でも見習うところがある。

 競合でもあり、この分野では先行していた「Nike+」(ナイキプラス)が目指す、“フィジカルのパフォーマンス向上”といった機能的なベネフィットを提供するサービスとは、一線を画したものであることを強調しておきたいと思う。

 なお、UA HealthBoxと呼ばれるギアは、米国内ではアマゾンならわずか約220ドルで手に入れることができる。アンダーアーマーがハードウエアの販売で、儲ける気がないことは明白と言えるだろう。

 お客さまの全員会員化が前提の、サブスクリプション型(会員課金型)ビジネスへの展開がアンダーアーマーの野望である。

なぜアンダーアーマーは自らゲームチェンジャーになったのか

 それではなぜ、スポーツ用品企業として進境著しいアンダーアーマーが、リスクを冒してまで、IoT技術を活用したウェルネスとフィットネスのサービスに打って出るのであろうか。

 理由はおそらく3つある。

 1つ目の理由はお客さまとの関係性の問題である。

 スポーツ用品企業としてのアンダーアーマーのビジネスの実態が、実はBtoCというよりもBtoB企業に近い体質であるということは、あまり知られていない事実だ。

 世界的に、スポーツ用品企業のビジネスモデルは大手のスポーツ用品流通企業に対する製造卸業であり、直営店のようなレアケースを除けば、直接のお客さまはエンドユーザーではない。米国内では、スポーツオーソリティやディックス(DICK’S)のような大型店舗を構えるスポーツギア専門店や、ウォルマートなどのGMS(総合スーパー)、アマゾンのような通販サイトが、彼らの最重要顧客に相当する。

 お客さま情報はスポーツ用品流通企業が囲い込み、アンダーアーマーにはフィードバックされるケースは少ないので、中長期視点でマーケティング戦略を考える場合、どうしても3C分析のCustomerの領域で死角ができる。

 そう、お客さまと直接つながり、お客さまの行動データをビジネスに活用することは、アンダーアーマーならずとも多くのスポーツ用品企業にとって喫緊の課題であったのである。

 第2の理由は、企業の成長性に対する課題意識である。世界3位(年間売上高4500億円)のスポーツ用品企業になったとはいえ、米国と日本を主要市場とするアンダーアーマーは、文字通りグローバル展開を行っている1位のナイキ(年間売上高3.8兆円)や2位のアディダス(同2兆円)と比較すると、大きく水を開けられている。

 そればかりか、売上高はここ2〜3年、1000億円/年ペースで伸びているが、営業利益・純利益は全く伸びていない。製造業である以上、スポーツ用品というすでに成熟化したマーケットでより多くの量を売ろうとすれば、在庫や値引き販売のリスクは常に伴うのが宿命だ。

 企業としての明確な成長戦略を描くためにも、本業のスポーツ用品業が健全なうちに、次なる事業の柱を構築すべきタイミングに来ているということではないだろうか。

 第3の理由は、お客さまと企業がデータを媒介にして24時間365日つながるIoTのビジネスは先手先手と常に他社に先駆けないと勝ち残ることが難しいという特有のゲームルールによるものだ。

IoT時代の勝者の条件は「学習能力の速さ」と「オープンな企業連繋」

 最初はシンプルに小さな間口でサービスを導入し、お客さまのフィードバックを得ながらアジャイル(迅速な)改善を繰り返して、成功の糸口が掴めたら規模を拡大する「リーン・スタートアップ」と呼ばれる導入戦略が、IoT時代の勝利の方程式である。

 別の表現で言えば、IoT時代の競争優位は、従来のような「ヒト・モノ・カネ」といった内部リソースの配分ではなく、まさに「学習速度の速さ」なのである。

 一番乗りの企業が、試行錯誤を繰り返しながらサービスの受益者であるお客さまをいち早く囲い込み、ロイヤルティの高い顧客基盤を作り上げる。そしてゲームルールを自由に設定する(サービスのスキームや料金体系など)ことができるだけではなく、フォロワー企業に安易に模倣されないように、特許や商標で防御網を張り巡らすことも可能になる。

 加えて、アンダーアーマーの戦略で先見性を感じるのは、「IoTを活用したウェルネスとフィットネスのサービス業」へとなりわいを転換するにあたり、オープンな企業連繋により、企業内部で調達できない専門的なナレッジやスキルをいち早く調達していることだ。

 図2で見るように、基幹システムはSAP、AIはIBMのワトソン、スマホアプリはサムスン、UA HealthBox機器はHTCという具合に、アンダーアーマー自身が指揮者の役割を演じる「オーケストラ型の連携」を実現しようとしていることに注目したい。

 2015年のCESのパネルディスカションで、シスコシステムのCEO(当時)のジョン・チェンバースは「IoTによって全ての企業はハイテク企業になる。フォーチュン500企業の中で生き残れる企業は40%に過ぎない。そしてDisruption(破壊的イノベーション)は今、そこに起きている現実であり、ベンチャー企業ではなく、大企業こそがDisruptor(破壊者)にならないと生き残れない」と看破した。

【参考】「巨大企業をなぎ倒していくIoTの凄まじい衝撃」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47868)

 エヌビディアがデジタライゼーションを象徴するベンチャー企業の代表者なら、アンダーアーマーこそがDisruptor(破壊者)に変貌しようとしている、リアルライフに軸足を置いた大企業の先駆けであるといえよう。

 生き残る40%の企業のリストにその名を残すために、われわれ日本の大企業に残された時間は実はあまり多くはない。

筆者:朝岡 崇史


コメントを残す