三井物産社長「評価される資料」の3条件 – livedoor

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■作成時間をかけるな簡潔明瞭にせよ

資料はシンプルであればあるほどいい、というのが僕の考えです。いい企画書とは本来、資料がなくても通じるアイデアが書かれているものでしょう。資料は頭の中を整理して転写しただけのものであって、大事なのは頭の中です。だから転写作業に時間をかけてもらっては困る。大層な資料をつくる時間があるなら、もっとビジネスパートナーや客先、取引先などのステークホルダーとしっかり交渉してこいという気持ちになる。構想を具現化、実現化して、ビジネスの骨格をつくるにはたくさんの人と会って話をする必要があります。転写作業に時間を使うより、そちらにもっと労力と神経を使うべきなんです。そこができていれば、資料のフォーマットや体裁は問わないというのが僕の主義です。

そういう考えから、僕は社長就任直後の社内改革の一環で資料のあり方も見直しています。これまで当社ではA3用紙にびっしりと書かれた非常に情報量の多い資料が作成されてきたのですが、それでは冗長になりやすいうえにファイリングもしにくい。そこでA4用紙に統一し始めている。資料の書き方も、まず結論を明記し、内容は平易な言葉で、箇条書き程度の簡潔な資料に改めるよう指示しました。

理由は2つ。1つは今言った通り、資料作成にかかる時間を削れということ。もう1つは何かというと、そのほうが英語化しやすいから。当社には連結ベースで約4万4000人の社員がいますが、日本人は約1万9000人程度です。また会社で扱うほとんどの案件に外国人スタッフが参加しますから、書類はすべて英語化が前提になります。よりスピーディに英語の書類を作成するには、大もとの書類が簡潔明瞭でなければいけない。

僕が書類を見るときに、何を一番重視するかというと、いわゆる「デリバラビリティ(deliverability)」と呼ばれるものです。要は、書いてあることがその通りにできるのか、ということ。一つの稟議書が上がってきたとします。そこにはビジネスの枠組みやメリット、収益性などが書かれているわけですが、それだけでは起案者本人がただ風呂敷を広げているだけかもしれません。作りの凝った資料には往々にしてそういう傾向がある。だから字面だけ見て、いいねとはならないわけです。そこにどのようなリスクがあるのか、計画からの下振れが見込まれるときは、最大損失額はいくらなのか。予測しない事態が起きたとき、どういう対応をするのかといったことも、記されていなければならない。

一方で、メリットはどこまで拡大する可能性があるのか、どこまで利益を最大化できるのかについても記されているべきです。その両面が記されてあれば、起案に具現性、実現性を感じます。

しかし大切なのはそこから先です。起案した人間がどのような実績を重ねてきた者か、その部署の責任者に達成能力があるか。あるいはそのチームは必要なネットワークを構築できていて、案件を達成する実力値があるのかというところまで測る。それが経営トップの資料の見方なのです。

資料作りに時間を割くなといっても、資料がいらないと言っているのではない。商社の仕事では、パートナーほか多くの人と情報を共有して進めなくてはなりません。そのための資料は必須です。また稟議とはその案件を良質化するプロセスですから、コンセプトをみんなで共有し、整理、精査していくためのベースとしても資料は必要です。

ただ一口に書類といっても、目的や用途によって違います。ほぼ案件がまとまっていて、あとは社外取締役や株主に説明をするための資料は丁寧でわかりやすいものがいいし、これで契約が成立するというときの書類は、一つずつ慎重に交渉内容を積み上げて慎重に文書を作成していくことになります。しかし稟議のベースになるものや報告書の類は、なるべく手間をかけないのがいい。

■本当に実現可能か、きちんと交渉したか

商社における重要な仕事は、投資に値する案件を見つけ、顧客、パートナーとともにビジネスの骨格をつくり、それを実現すること。一つの案件をまとめるには、まずしっかりと自分たちのやりたい形を定め、どう実現するかをプランニングする。我々はそれを「ゲームプラン」と呼びますが、どこでどういう交渉をすればやりたい形が実現できるのか計画を立てるわけです。あとは計画に基づいて、一つずつ交渉を進めていく。行動することで成功の確実性を上げるのが商社の営業です。そうして一つずつ積み上げて最後に出てくるのが書類。つまり書類とは構想力と実行力のエッセンスなのです。

もし書かれた内容が曖昧だったり、もって回った表現になっていたりすれば「本当に実現可能なのか?」「ネゴ(交渉)負けしてきたんじゃないのか?」と、見る目が厳しくなります。

ビジネスは競争であって、スピード感がなければ負けてしまう。時間軸の中で考えうるすべてのことを潰したうえで意思決定を行わないと、予選にすら参加できません。なおかつデリバラビリティを高めることにも徹底的にこだわってもらう。となると、資料が出来上がる前に勝負が決していることもある。だから書類は簡潔明瞭でいいのです。

社長に就任して1年5カ月になりますが、その間に国内では社員と40回以上のランチ会を重ねてきました。そのほかに海外拠点の現地スタッフや関係会社の社員とは約30回。毎回10人ほどの社員と順に意見を交換します。

一人と話せるのは10分ほどですが、そこで話す内容のまとめ方で上手い人、下手な人がいます。単なる業務の報告よりも、自分が抱えている課題にいかに取り組んでいるかを話したり、自分が一国一城の主になったつもりで「経営陣には会社や国の未来のために、ここをよくしてもらいたい」などと提案したりする人は高く評価します。仕事にこだわりや執着がある人は、その裏に仕事に対する愛情を感じられます。当然その人の仕事に対する信頼感や安心感が増しますよ。

これは書類でも同じでしょう。短く簡潔な書面であっても「自分はこうしたい」というその仕事に対するこだわり、執着を感じさせるものは目を引きます。

当社では状況や相手を分析するばかりの者より、バッターボックスに立ってバットを振ってくる人間を増やしたい。社員には今後も、書類に時間を割くより外に出ろと言っていくつもりです。足を使い、汗をかいたうえで簡潔にまとめられた書類なら、簡単なものでも十分説得力を持つものです。

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三井物産社長 安永竜夫
1960年、愛媛県生まれ。東京大学工学部卒業後、三井物産に入社。プロジェクト業務部長、経営企画部長、執行役員機械・輸送システム本部長を経て、2015年4月より現職。

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(三井物産社長 安永 竜夫 構成=大島七々三 撮影=的野弘路)

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