【カナロコ・オピニオン】人権と社会を守る正当防衛 きょう川崎でヘイトデモ – カナロコ(神奈川新聞)

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【時代の正体取材班=石橋 学】人種差別主義者によるデモが16日午前、川崎市中原区の中原平和公園前を出発しようとしている。

 いや、前に進むことはできない。

 私がそう信じるのは、昨年6月5日の光景が焼き付いているからだ。同じ主催者、津崎尚道氏が同じ公園前から実行した「日本浄化デモ第3弾」は、人権侵害を食い止めようと集まった千人もの市民によって行く手を阻まれ、中止に追い込まれたのだった。

 私たちの社会はもう差別を野放しにはしない。見過ごしたりはしない。後戻りしない。

 確かめておきたいことがある。

 デモ申請の受理にあたり、県公安委員会は「差別的言動は許されない」とするヘイトスピーチ解消法の順守を求め、主催者側もヘイトスピーチはしない、ヘイトデモではないと伝えたという。

 ヘイトスピーチをしたことがないと居直る確信的差別主義者である。「しない」と宣言したところで、これまで通り「これのどこがヘイトスピーチなのか」と、差別をまき散らし続けるだけだ。

 何より、後述するように差別の扇動はすでに行われているのである。約束などはなからする気がないし、したところで最初から意味を失っている。

 いかなる名目を掲げようと、人種差別主義者のデモは差別と、その扇動を目的に行われる。予告された時点からすでに人権被害は生じ、たとえデモの中でヘイトスピーチがなされなくても、デモを行ったという事実が差別の扇動に用いられることになる。

 その意味で今回も紛れもないヘイトデモであり、そのような目的で姿を現した瞬間から非難される対象なのだ。

 もう一人の主催者で、ナチスを信奉する代表的差別扇動者、瀬戸弘幸氏は15日夜、インターネット上に生中継の動画を流し、翌日に迫ったデモについて語った。

 「公安委員会に認められた政治的な合法デモだ」

 その欺瞞(ぎまん)は自らの言葉が明らかにしている。それは政治的主張を装ったヘイトスピーチにほかならなかった。

 たとえば、北朝鮮の金正恩政権は近く崩壊するという、現実を無視した放言はこう続いた。

 新政権になれば金政権を支えてきた朝鮮総連や在日朝鮮人は犯罪者扱いされ、送還のため日本政府に逮捕される―。

 虚言に妄言を重ね、在日コリアンへの蔑視と敵意をあおる以外に意味をなさない支離滅裂さは政治とも、主張ともほど遠い。そして視聴者が書き込むコメント欄からは憎悪があふれ出るのだった。

 「川崎市の在日職員排除して欲しいね」「朝鮮学校を国民が毎日見張るべき」「テロだって簡単に起こす」「暴れれば全員射殺でいいだろ」

 瀬戸氏は締めくくりで狙いを語ってみせた。

 「明日は彼らの最後のあがきが見られる。大量動員されればデモができない可能性がある。その深刻な状況を身をもって国民に示したい」

 ヘイトデモの現場に抗議に駆け付けるのはほとんどが日本人であるにもかかわらず、在日コリアンだと事実をゆがめ、敵に仕立てる。デモが予定通り実行できれば「差別する自由」を誇ってみせ、抗議に遭えば「言論弾圧だ」「やはり在日は危険な存在だ」などと、さらなる攻撃と差別扇動の材料にする。

 結果がどうであろうと、そうして事実をねじ曲げてでも差別とその扇動に利用する。動画をインターネットで生中継し、録画を動画投稿サイトにアップして拡散させ続ける。

 だから参加者が多かろうが少なかろうが関係ない。今回はこれまでのようにインターネット上の告知で参加者を広く募るということをしていない。申請されたデモコースもわずか700メートルにすぎない。

 もはやデモと呼べない計画もしかし、なおも差別をやめない執拗さ、醜悪さを一方で示している。

 極右政治団体「日本第一党」最高顧問でもある瀬戸氏を私は職業的差別主義者と呼ぶ。それはたとえば、差別扇動の道具として長年書きつづるブログで自身の農園の宣伝をし、「7月は川崎問題で何かとお金がかかります。農産品のご購入で協力お願いできたらと思います」と臆面もなく記していることからくる。人を傷つけることを食い物する人物が主張する「言論の自由」の正体がここにある。

 そうしてすでに生じている被害とはいかなるものか。

 ここで2通の意見書を紹介したい。

 川崎市は現在、公園や市民館など公的施設でのヘイトスピーチを事前規制するためのガイドラインづくりを進めている。公表された案に対するパブリックコメントの募集に応じた一人に中学3年生、中根寧生(ねお)さんがいる。

 「市民の安全と尊厳を守る」「もう2度と差別に傷つけられることがない様に」「守ってくれることを信じています」

 短い文面になお消せない傷が刻まれている。

 寧生さんが暮らす川崎市川崎区桜本を「日本浄化デモ」と称した一団が襲ったのは2015年11月と16年1月のことだった。

 「ごみ、ダニ、ウジ虫を駆除する」「朝鮮人は敵だ。ぶち殺せ」

 抗議の声を上げる寧生さんにレイシストたちはあざけりの笑みさえ浮かべ、手招きまでして挑発した。

 「大人なんだから話せば分かってもらえる。差別をやめてくださいと言ったらやめてもらえる。そう思っていたのですが」

 桜本から訴えた声は立法事実となってヘイトスピーチ解消法に結びついた。三たび計画された日本浄化デモについて福田紀彦市長は「市民の安全と尊厳を守る」ため、津崎氏の公園使用を許可しなかった。場所を中原区に移して強行された第3弾は市民の抗議で10メートルしか進めなかった。

 しかし―。

 最後の一文、ひときわ大きな文字、強い筆圧でつづられた「条例を作って差別を禁止して下さい」がいま、悲痛な叫びとなって響く。ペンを取ったのは7月8日。すでに津崎氏、瀬戸氏によって第3弾の「やり直し」がブログで予告されていた。

 そしてもう1通。小学生の弟が描いた絵が、その恐怖を映し出す。

 暗闇に浮かぶ無数のレイシストたち。あざけり、憎悪をたたえたつり上がった赤い目。そして耳にしてしまった、でも、自分では到底文字に起こすことのできないおぞましい悪罵が「××××」と表現されている。左下の隅で「やめて~!」「こわいよ~」と泣き叫ぶ少年は自分自身であろう。

 兄弟は日本人の父と在日コリアン3世のオモニ(母)を持つ。オモニの崔江以子(チェ・カンイヂャ)さん(44)はヘイトスピーチの被害を訴え、差別をやめてほしいと伝えただけなのに、瀬戸氏のブログで個人攻撃を受け、あおられた者たちからさらなる攻撃をインターネット上で浴びせられている。いつ襲われるとも知れず、子どもと近所のコンビニ店まで一緒に行くこともできなくなって久しい。

 もう一度、子どもの瞳に映るこの社会の現実を見詰めてほしい。

 痛めつけられ、ゆがめられていているのは、この社会に共に生きるマイノリティーであるとともに、社会そのものだ。

 差別を禁止する法律も、条例もない。だからといってただ指をくわえているしかないのか。そうではないはずだ。目の前で共にある人が、自分たちの社会が傷つけられようとしているとき、抗うのは正当な権利であるはずだ。私はそれを正当防衛であると考える。

 ヘイトスピーチ解消法3条もうたっている。

 「国民は差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない」

 再び市民の力でこれ以上の被害を食い止める。

 抗議活動は午前9時半、中原平和公園出会いの広場で始まる。






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