ドルトムントの強烈なプレスが標準になるなら、Jの未来は明るい(浦和対ドルトムント) – VICTORY

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今年から発足した「明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ」、初戦の顔合わせは浦和レッズと、香川真司が所属するドイツの名門ボルシア・ドルトムント。試合は、ホーム浦和の強烈な圧力に苦しみながらもドルトムントが3-2で逆転勝ちを収めました。数多くの得点機を作った浦和の健闘が光る一方、来日翌日かつシーズン開幕前、さらに新監督就任1週間というハンデだらけのドルトムントが見せた強さはさすがドイツの名門というべきもの。この試合の解説を、ブロガー・らいかーるとさんに依頼しました。

文:らいかーると

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2017年7月15日に浦和レッズと対戦する、ドイツの名門ボルシア・ドルトムント。日本代表MF香川真司選手が所属し、バイエルン・ミュンヘンと並びドイツを代表するクラブの一つとしてサッカーファンにはおなじみです。そんなドルトムントが、わずか10年前に倒産の危機にあり、ブランドコントロールに本格的に乗り出したことはあまり知られていないでしょう。紐解くと、そこには日本のプロスポーツが参考にすべき事例が多々含まれていました。帝京大学経済学部准教授であり、プロクリックスでもある大山高氏(スポーツ科学博士)に解説を依頼しました。

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ブンデス得点王・オーバメヤンがまるで目立たなかった理由

©Getty Images

浦和のボールを保持していないときのシステムは5-4-1。Jリーグでもおなじみの形だ。さらにドルトムント対策として、ワントップの興梠慎三がヌリ・サヒンを担当する形となっていた。ドルトムントのセンターバックコンビがストレスなくボールを持てていた理由は、浦和の守備の形に原因があった。浦和のシステムは、5-4-1-0と表現しても良いかもしれない。

興梠をヌリ・サヒンにつけるほど、守備的に振る舞った浦和。その理由は、新監督を迎えたドルトムントの攻撃の形にある。ドルトムントのシステムは4-3-3。特徴は、インサイドハーフとウイングによるライン間を狙ったポジショニング攻撃と、インサイドハーフのサイドに流れる動きで相手のセントラルハーフを動かし、オーバメヤンのプレーエリアを確保する中央攻撃だ。

中央攻撃を防ぐために、浦和は興梠だけでなく、武藤雄樹、ラファエル・シルバも中央に絞らせたポジショニングをすることで、ドルトムントのライン間を狙う選手たちを捕まえようとした。くさびのパスを連打するドルトムントのセンターバックコンビだったが、思うようにパスの受け手が時間を得られなかった理由は、浦和の守備の姿勢にあると言っていい。オーバメヤンがまるで目立たなかった理由も、同じく浦和の中央を優先した守備の形ゆえだ。

浦和を観察しながら糸口を見出すドルトムント

©Getty Images

浦和の守備の形を見ながら、ドルトムントは攻略の糸口を見つけていく。序盤にその糸口を見つけたのはシュメルツァーであった。サイドを担当する武藤、ラファエル・シルバが中央に絞っているなら、サイドからボールを前進させればいい。定石通りに、ボールを連続して運ぶシュメルツァーのプレーに対して、武藤はよりサイドを意識したポジショニングをするように変化していき、シュメルツァーの前にしっかりと立てるようになっていく。

武藤の変化に対して、ドルトムントは逆サイドからの前進を試みる。武藤に比べると、守備が曖昧なラファエル・シルバ。よって、ドルトムントはラファエル・シルバがいるサイドからの攻撃を繰り返すようになっていく。武藤がいるサイドではボールを前進させるだけだったのに対して、ラファエル・シルバがいるサイドからは、ペナルティエリアまで侵入できるものになっていた。結果、ドルトムントの攻撃はラファエル・シルバのサイドに偏っていく。

試合が展開していく中で、ドルトムントは相手を攻略するヒントをピッチから見つけていった。サイドからボールを前進させることができれば、相手にサイドの守備を意識させることができる。相手がサイドの守備を意識すれば、中央が空き、本来のドルトムントの形を相手に強いることができるということだ。

スタジアム沸かせた「2度追い」プレッシング

©Getty Images

相手を観察しながら、徐々に浦和の陣地に侵入していくドルトムントのボール保持も見事だったが、最もスタジアムを沸かせていたのはドルトムントがボールを失ったときのプレッシングだ。素早い攻守の切り替えは、苦労してボールを奪った浦和にボールを保持することを許さなかった。

ドルトムントのプレッシングは、ボール保持者に対して、相当の圧力を持って行なわれていた。日本の言葉を使えば、「2度追い」となる。1人の選手が複数の選手を追いかけ続けるスピードと圧力を持って、相手から時間とスペースを奪う。

本来のプレッシングは、明確な守備の基準点を持ち、ディアゴナーレ(編集部注:対角線の意味)の形を持って行なわれるのだが、ドルトムントはリスクを恐れない。自分のマークの担当がボールを離したとしても、そのまま追いかけ続ける。さらに、追いかける選手が増えていく。結果、プレッシングがかわされれば、前半4分にラファエル・シルバがペナルティエリアに侵入しドリブル勝負を仕掛けたような決定機を相手に与えてしまうことになる。

ヨーロッパでは、「相手からボールを奪ったとき、奪い返しにくるファーストディフェンダーをどのように外すか?」に注目が集まっている。基本は複数の選手によるコンビネーションとなるのだが、ドリブラーを中央に配置し、相手のファーストディフェンダーとのデュエル(1対1)を制し、一気にカウンターを加速させるケースも増えてきている。浦和の場合は、ワンタッチプレーを連続させることでドルトムントのプレッシングをはがす意図を持っていたが、ちょっとしたミスによる時間の損失(主にボールが止まらないこと)によって、ボールを奪われる場面が続いてしまっていた。

相手のミスを待ち構えるのではく、果敢なプレッシングというアクションによって、相手からボールを奪う、相手のミスを誘発させるようなドルトムントの強烈なプレッシングは、浦和にとって、大きな刺激になったのではないだろうか。この試合でドルトムントが感じさせた一番の世界基準がこのプレッシングだった。

シルバと武藤のポジションチェンジから、流れは浦和に

©Getty Images

ラファエル・シルバがいるサイドからボールを運ばれ、シュールレのミドルシュートを放たれた場面以降から、浦和はラファエル・シルバと武藤の位置を入れかえる。きっかけはコーナーキックからの流れだが、このポジションチェンジは長い時間維持されていた。よって、戦術的な意味合いがあると考えるほうが妥当だろう。

目的は、崩されていたラファエル・シルバがいたサイドに、守備で貢献できる武藤を配置して穴をふさぐ作戦だ。実際、武藤が左サイドに移動してから、ドルトムントの攻撃はおとなしくなっていく。

ドルトムントのプレッシングを回避できれば、浦和はプレーエリアを確保することができる。ミスも多かったが、ゴールキックからプレッシングを回避することができると、浦和はサイドチェンジを多発する攻撃をみせた。「ドルトムントのウイングは守備に帰ってこない」というスカウティングの成果だろう。

見せ場を作ったのは関根貴大で、一連の流れから、浦和がコーナーキックで先制する。ドルトムントのコーナーキックの守備の特徴は、前線に3枚の選手を残すこと。ロングカウンターからの質的優位に、自信があるのだろう。しかし、マンツーマンで人がほとんど余らない状況でのコーナーキックの守備はまだまだ未整備のようだった。この試合における2失点がいずれもコーナーキックからだったことは、偶然ではないだろう。そして、ボールを跳ね返すことができれば、カウンターをすることはできない。

速攻合戦を引き出したドルトムントのシステム変更

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後半の開始から、ドルトムントは3-4-3に変化させてきた。3バックの全員が後半から登場してきたので、予め決まっていた変更だったのかもしれない。このドルトムントの変更が大きな影響をピッチにもたらした。

5-4-1を取る相手への対策として、中盤をボックス型で組む形が定跡となりつつある。ドルトムントはカストロ、ヌリ・サヒン、シュールレ、エムレ・モルでボックスを形成した。浦和のセントラルハーフの守備の基準点は、ヌリ・サヒンとカストロになり、浦和の両脇のセンターバックの守備の基準点は、エムレ・モルとシュールレとなる。守備の基準点がはっきりしたことによって、浦和は質的優位勝負つまり、一対一のデュエルでどちらが勝利するかが試合の明暗を分ける形に持ち込まれることになった。

狙っていたかは定かではないが、システムが噛み合ったことで、浦和はセンターバックへもプレッシングに行くようになった。結果、ドルトムントは前半のようにボールをまったりと保持するよりも、さっさと前線の3枚にボールを預ける速攻がメインの展開へと移行していく。浦和の積極的な姿勢が、ドルトムントの狙い、速攻を引き出したことは言うまでもない。ただし、浦和もカウンターや速攻から決定機を作っていたので、前からボールを奪いに行く姿勢にデメリットだけがあったわけでもないのだが。

3バックは、ゾーンの隙間にポジショニングする選手を捕まえやすいために流行してきている。ただし「どこまで捕まえに行くのか?」という判断を何度も相手のセンターバックに強いることで、相手を疲れさせることができる。

迎撃型の3バックに対して、周りの選手に守備の基準点を設けることで、センターバックのサポートをできないようにする。そして、守備の基準点の選手に縦列の移動をさせることで、どこまでついていくかの判断をセンターバックに強いる作戦はお見事だった。完全なマンツーマンで対応できれば、槙野ももっと勝負できたかもしれないが、地味に広大なスペースを謳歌するイサクも意識する必要があったことが痛い。なお、後半の戦い方のほうがオーバメヤンは嵌りそうな気がする。

ドルトムントは大変なシーズンになるかも?

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後半から登場したエムレ・モルは、フリーなポジショニングによって時間とスペースを得ると、得意のドリブルで加速する。序盤は槙野智章の執拗な対応に苦戦するも、徐々にその真価を発揮し、一気に逆転にまで持っていくパフォーマンスをみせた。浦和はコーナーキックから同点に追いつくも、最後は連携ミスから逆転ゴールを許して試合が終わる。

ドルトムントのサッカーで最も気になったことは、ビルドアップでゴールキーパーを使いすぎだったことだ。ビルドアップでキーパーを使うと、相手に守備を整える時間を与えてしまう。また昨今の流れでは、ドルトムントが行なっていたように、プレッシングを掛けるチームはキーパーまで連動したプレッシングをかけてくる。よって、できればキーパーにボールを下げずに、ボールを前進させたい。今のドルトムントの姿が応急処置でキーパーをビルドアップで使っているなら良いが、レギュラーな形だとすれば、なかなか大変なシーズンになるかもしれない。

試合を通じて、最も印象に残ったのは、やはりドルトムントの攻守の切り替えだった。スピードと複数の選手による一糸乱れぬプレッシングは、浦和に何もさせない時間帯を確かに作っていた。ボールを奪いに行くアクションに対して、どのように打開していくかで、浦和もスタジアムを沸かせる場面を何度か作ることができていた。相手のミスを待つような守備だけではなく、ドルトムントのプレッシング、攻守の切り替えが標準装備になっていけば、Jリーグの未来はさらに明るくなっていきそうな気がする。

<了>

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2017年7月15日に浦和レッズと対戦する、ドイツの名門ボルシア・ドルトムント。日本代表MF香川真司選手が所属し、バイエルン・ミュンヘンと並びドイツを代表するクラブの一つとしてサッカーファンにはおなじみです。そんなドルトムントが、わずか10年前に倒産の危機にあり、ブランドコントロールに本格的に乗り出したことはあまり知られていないでしょう。紐解くと、そこには日本のプロスポーツが参考にすべき事例が多々含まれていました。帝京大学経済学部准教授であり、プロクリックスでもある大山高氏(スポーツ科学博士)に解説を依頼しました。

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