家族主義と業績主義を両立させる「有言実行の経営」 – BIGLOBEニュース – BIGLOBEニュース

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創業152年、ドイツ発の世界最大手の化学メーカーBASFは、「欧州企業に学べ」という企画趣旨に最適な企業だ。

「総合」「多角化」を好みながらも苦戦している日本企業が多い中、BASFは大規模な事業ポートフォリオの組み替えを行いながらも、創業から一貫して「総合化学会社」であることを強みに事業を展開。現在は世界に6カ所の統合生産拠点、352カ所の生産拠点を構えている。
 
早稲田大学大学院(ビジネススクール)准教授・入山章栄とデロイト トーマツ コンサルティング執行役員パートナー・日置圭介は、BASFを「家族主義と業績主義を両立させている、稀有な企業」と評価する。なぜBASFは、両立を実現できているのか─。日本法人の代表取締役副社長兼財務管理統括本部長を務める須田修弘に、話を聞いた。

入山章栄(以下、入山):BASFは、「ゲマインシャフト(家族共同体)」という言葉で表現される、ドイツ企業ならではの従業員を大事にする「家族主義」を維持しながらも、好調な業績を上げ続けています。なぜ、BASFでは、多くの日本企業に難しいことが実現できているのでしょうか。

須田修弘(以下、須田):まず、BASFには明確な戦略があります。「ワンカンパニーとしての付加価値を創出」「ベストチームを編成」など、「Wecreate chemistry for a sustainable future.(私たちは持続可能な将来のために、化学でいい関係をつくる)」という目的を支える4つの戦略方針を掲げています。重要なのは、これらの言葉をただのスローガンで終わらせないこと。BASFでは、「戦略をどう現場での日々の仕事に落とし込むか」を強く意識しています。

日置圭介(以下、日置):具体的には、どのような施策を実施されているのでしょうか。

須田:例えば、「ワンカンパニーとしての付加価値を創出」という戦略方針では、「付加価値」を「利益が規定されたキャピタル・コスト(資本コスト)を上回ること」と明確に定義しています。2016年度は、基準となる資本コストを10%に設定し、全事業を評価しました。

次に、こうしたKPI(重要業績評価指標)を現場に落とし込むために、製品単位でも、グローバルの連結収益が算出できる全社統一のシステムがあります。そうすることで、一人ひとりがワンカンパニーとしての連結業績を意識して、日々の意思決定ができるわけです。

KPIを算出するための、大規模なシステムのつくり込みについても、十分な時間をかけ投資も実施してきました。全社のバックオフィス業務の一部を一括で行うシェアードサービスセンターを、マレーシアに設置し、国ごとに仕様が違うシステムを統合し、プロセスまでグローバルで統一しました。M&A(合併・買収)を進めても、システムと問題なく統合できる現在の体制を確立するまで、実に10年の歳月を費やしてきました。

日置:損益計算書(PL)で事業部の業績を見ることの多い日本企業では、資本コストを加味して評価することのハードルは結構高いです。その上、「資本コスト10%以上で、はじめて価値を出したことになる」というのは、厳しい基準ですね。

入山:「ワンカンパニー」を実現するための全社統一のシステム構築に、徹底的に金・時間・労力をかける。こうした、戦略を行動にまで徹底的に落とし込む「有言実行の経営」こそ、BASF流というわけですね。

入山:人材育成についてはどうでしょうか。「必要な人材がいれば、外部から採用する」という発想の米系企業と比べ、「人材を育てる」という意識を持つドイツ系企業。人材育成への考え方は、日本企業と共通している点も多いように思います。

須田:人材育成においても、「ベストチームを編成」という人材戦略のもと、「人材を育てよう」という言葉だけで終わらないことを重要視しています。
 
まず、社員が年複数回、個人の強みと改善点を振り返り、上司と対話の機会を持つ「エンプロイー・ダイアログ」という取り組みがあります。ここで重要なのは、上司がただヒアリングするのみならず、そこで描いた部下のキャリアパスの実現を支援すること。

例えば、部下が希望するキャリアの実現に近づくポジションがあれば、国内に限らず世界中の拠点も含めて上司は可能な限りローテーションに出してあげなければなりません。その部下が部署にとって欠かせない人材であったとしても、希望するキャリアパスを聞く機会を用意した以上、経営側は実現の可能性を考えなければなりません。「有言実行」が原則です。

「エンプロイー・ダイアログ」を実施するのは、社員に「自分自身がキャリアのドライバーとなって、成長する」という視点を持たせるためです。「マーケットバリューの高い人材」、つまり、どんな状況でも価値を創出できる「プロフェッショナル」を目指してもらうことこそが、真の目的です。

日置:ドイツと日本での「従業員を大事にする」ということの意味合いに違いが表れていると思います。変化の芽は見られているものの、日本企業の根っこにはまだ終身雇用が慣性として残っており、抱え込むことがイコール、大事にしているという感覚があるのかもしれません。
 
もちろん、内部成長によって従業員のマーケットバリューが高まっているならよいのですが、彼らが「社内外を問わない未来」を想定した場合にも本当にそうなのか。この視点を持つことで「キャリアパスの実現を支援する」ことができるというわけですね。

須田:日本企業もドイツ系企業も、「会社の中の社員の関係性を良くしましょう」という発想は共通しています。その良い関係性を、結果に繋げるためには、明確なKPIを設定することがやはり重要です。
 
それは、マサチューセッツ工科大学元教授のダニエル・キム氏が提唱した「成功の循環モデル」を参照にして考えると、より明確になります。このモデルは、組織が成果を出す過程を、「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」が順々に高まるサイクルで分析するものです。

日本企業の場合、業務外のコミュニケーションや優秀な人材によって、「関係の質」と「思考の質」は優れている。しかし、その次のステップである「行動の質」に繋げる仕組みづくりが必要なのかもしれません。このプロセスを橋渡しするものとして、資本コストのようなKPIの導入は、効果的だと思います。

入山:「選択と集中」を推し進め、競争力のある事業で勝負することの多い日本の化学企業。一方で、BASFは「フェアブント」(ドイツ語で「統合・つながり」の意味)を理念として掲げ、「総合化学会社であること」を企業の強みと考えていますね。なぜでしょうか。

須田:自社で「川上」から「川下」まで、全ての生産工程を持っていることこそが、BASFにとって「イノベーションの源泉」です。
 
例えば、BASFでは人口増加や都市化に伴う課題の解決に化学が貢献できる分野として、交通、消費財、建設、農業など、7つの成長分野を設定。総合化学会社であることを活かせば、そのターゲットに全社をあげてフォーカスし、化学の力で「良い関係」をつくることが可能です。また全行程を持っているからこそ、外部にある、あらゆる新技術に対して、その将来性を見出し、柔軟に取り入れることができるわけです。

日置:「外部の新技術」に関しては、日本企業ではなかなか活用しきれていないコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)を、ドイツで別法人として運営し、これまでも投資先企業を、BASF本体へとスムーズに取り込んできた実績があります。異なる体質の企業を買収することには困難が伴うものです。なぜ、うまくいくのでしょうか。

須田:フェアブントの理念と、そこを起点に生まれたBASFの戦略が、企業全体に浸透しているからだと思います。BASFの企業風土の根底にあるゲマインシャフト(家族共同体)も要因かもしれません。フェアブントサイトと呼ぶ私たちの統合生産拠点では、製造設備が極めて効率的に結びついています。

この考え方は、生産や技術のみならず社員にも浸透しており、全社員の経験や専門知識を結びつけています。BASFには、フェアブントを強みとした、イノベーションの生まれやすい気質がある、というわけです。

入山:また、BASFは、さらなる総合化・多角化を目指し、断続的な買収を実施してきました。10年から16年で買収した事業の売上高は、52億ユーロ(約6416億円/16年末の為替レート)。その一方で、同時期に売却した事業は、200億ユーロ(約2兆4680億円)と、企業買収以上に大胆な事業売却を行ってきました。どのような条件の下で、売却の意思決定を実施していますか。

須田:現在は、バリューチェーンの「川下」にフォーカスしていく方針で、事業ポートフォリオの入れ替えを進めています。売却する事業であっても、基本的に利益を出しています。しかし、会社の方向性に合わないのならば、売却することが我々の方針です。

日置:ゲマインシャフト(家族共同体)的な側面を持つ企業としては、事業を売却することに困難はないのでしょうか。

須田:もちろん困難に直面することもあります。しかし、社員には「これまで培ってきた知見を活かせる機会」として理解してもらえるよう努めています。

入山:BASFが、従業員に理解してもらった上で、事業を売却できているのは、事業の収益が成り立っている状態で、売却を行っているからでしょう。事業が”死に体”になれば、買い手も見つからず、会社も従業員も不利益を被ります。会社の目指すビジョンから外れた段階で、早期に売却の決断ができていることは、注目に値します。

日置:先ほどあった、マーケットバリューが高まるように人材育成を実施していることも、売却が比較的スムーズに運ぶ大きな理由。プロフェッショナル人材であれば、万が一、BASFがその事業を手放すことになったとしても、恵まれた環境を整えられれば、活躍し続けることができるので、会社側も適時での判断ができるというわけですね。

須田:資本コストによる事業収益の管理と、どんな状況においても価値を創出できるプロフェッショナルな人材の育成。この2点のおかげで、BASFは大胆な買収・売却を実施しながら、常に最適な事業ポートフォリオへと組み替えることができます。だからこそ、BASFは、現在でも「総合化学会社」として、強みを発揮しながら生き残り続けることができています。

入山章栄◎早稲田大学大学院経営管理研究科准教授。著書に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』など。

日置圭介◎デロイト トーマツ コンサルティング執行役員パートナー。早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師。

須田修弘◎BASFジャパン代表取締役副社長兼財務管理統括本部長。1986年に入社後、財務・経理担当などを歴任。2009年、東アジア地域統括本部ファイナンス&コントローリング アジアパシフィックディレクター就任。13年8月より現職。

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