複雑すぎる”加工食品の原料表示”は必要か – BIGLOBEニュース – BIGLOBEニュース

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加工食品の原料表示について、消費者不在のルールが生まれようとしている。これまで原料の原産地表示は、実行可能性と消費者の関心から義務化の品目を絞ってきた。ところが政治主導によって、2020年春から、義務化の対象が「全ての加工食品」に広がろうとしている。新しい仕組みは「例外」が多く、悪質業者のモラルハザードを招きかねない。「食の安全・安心財団」の常務理事で、農水官僚として食品表示の監視業務に携わってきた中村啓一氏が解説する——。

■「全ての加工食品」が対象になった

昨年春、食品関係事業者に驚きのニュースが報じられた。自民党の「農林水産業骨太方針策定プロジェクトチーム(小泉進次郎委員長)」が3月31日に開催された会合で、全ての加工食品を対象に原料原産地表示を導入する方針を提示し了承したのだ。

中村啓一氏

この方針は、「日本再興戦略2016」と「経済財政運営と改革の基本方針2016」に盛り込まれ、閣議決定(6月2日)とされた。これにより、消費者庁と農林水産省が共同で開催している「加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会(以下、検討会)」は、全ての加工食品に原料原産地表示を導入することを前提とした制約の下の議論に終始することとなった。

この検討会は、加工食品の原料原産地表示について、「順次実態を踏まえた検討を行う」とされた「消費者基本計画」(平成27年3月24日閣議決定)、「実行可能性を確保しつつ拡大に向けて検討する」とされた「食料・農業・農村基本計画」(平成27年3月31日閣議決定)及び「原料原産地表示について、実行可能性を確保しつつ、拡大に向けた検討を行う」とした「総合的なTPP関連政策大綱」(平成27年11月25日TPP総合対策本部決定)を踏まえ、今後の対応方策について幅広く検討する(開催要領趣旨)として昨年1月に設置されたものであるが、その後の「全ての加工品を対象」とする閣議決定により「対応方策について幅広く検討する」道を閉ざされてしまった。

■産地表示の対象はどんどん拡大

食品の原料原産地表示は、鮮度を維持した輸送技術の向上に伴い、海外から輸入される生鮮野菜が増加してきたことを背景に、義務化が行われた。最初となる平成8年には、輸入量が多く品質格差の大きいしょうが、にんにく、さといも、ブロッコリー、しいたけの5品目にJAS法で表示が義務化され、平成10年には、ごぼう、アスパラガス、さやえんどう、たまねぎの4品目を追加。平成12年に、食肉、水産物を含む全ての生鮮食品に原産地表示が義務付けられた。

加工食品の原料原産地表示は、平成12年に梅干し及びらっきょう漬けについて表示が義務付けられたのが最初である。当時、海外から漬け物の原料として塩蔵された梅やらっきょうの輸入が急増しており、生産者から原料の産地表示の義務化を求める要望が寄せられていた。翌平成13年には全ての農産漬け物を対象に義務化され、その後も、輸入量が多い、あじ・さばの干物、塩蔵・乾燥わかめなど、加工食品8品目に原料原産地表示が義務付けられた。平成18年に加工度の低い20食品群(現在は22食品群)に原料原産地表示が義務付けられた後も、農産漬け物、野菜冷凍食品、うなぎ蒲焼き、かつお削り節の4品目が個別品目として原料原産地表示が義務付けられている。

■狙いはTPPでの「生産者対策」

このように、原料原産地の表示は、消費者の選択に資するという食品表示本来の目的とともに、輸入品と競合する国内の生産者対策として行われてきた歴史がある。平成21年には、緑茶飲料とあげ落花生が20品目群に追加され、平成25年には黒糖・黒糖加工品とこんぶ巻が新たな食品群として義務表示の対象に追加されてきた。

さらに今回の改正案には、「おにぎりの海苔」が個別品目として追加されている。「おにぎりの海苔」は使用割合が少ないことから新ルールでも原料原産地表示の対象ではなかった。改正案への追加は生産者の要望を受けたものだとうかがえる。

今回の加工食品の原料原産地表示拡大もTPP対策の一環として提起され、国内農林水産業対策の一環として位置づけられている。その事実は、全ての加工食品を対象とする閣議決定では、日本再興戦略が「攻めの農林水産業の展開」、経済財政運営と改革の基本方針が「攻めの農林水産業の展開と輸出力の強化」の中で記述されていることからも明らかである。

■例外表示が及ぼす影響

消費者庁は、昨年11月の検討会中間報告を踏まえて、全ての加工食品に原料原産地表示を義務付けるとする「食品表示基準の一部を改正する内閣府令案」を提示した。現在、内閣府の「消費者委員会食品表示部会」に諮問され審議されている。

消費者の支持のもとに国産食材の消費を拡大し、国内農業の活性化を図ることは筆者も賛同するところであり、「国産」といった情報の提供には一定の効果も期待できる。しかし、加工食品は様々な原料を世界中から調達している。さらに使用する原料自体も加工食品である場合も多い。加工食品に対し生鮮食品と同様の原料原産地を正確に表示させることは、技術面、コスト面において難しく、義務化は現実的ではない。

このため政府は、従来は認められていなかった「例外規定」を設ける方針だ。ただ、現在、案として示されている例外規定は、食品表示の役割である「消費者が必要とする情報をわかりやすく伝える」という原点からかけ離れている。

■原材料は輸入でも「国内製造」の謎

例外規定には大きく3つの括りがある。1つ目は「大括り表示」で、三カ国以上から輸入され産地が頻繁に入れ替わる場合は「輸入」とだけ示せばいい。2つ目の「可能性表示」では過去の実績や今後の計画を根拠に「A国又はB国」とすることができる。大括り表示と可能性表示は組み合わせることもでき、その場合は「輸入又は国産」と表示できる。

【例1】大括り表示の例。第9回 加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会(平成28年10月5日開催)の「資料1」より抜粋。以下同じ。【例2】大括り表示+可能性表示の例【例3】大括り表示【例4】中間加工原料の製造地表示【例5】中間加工原料の製造地表示

さらに、消費者の混乱を招きそうなのが「製造地表示」である。小麦粉、砂糖、澱粉、油脂、乳製品といった加工品の場合、その原材料のほとんどは輸入農産物だが、こうした加工品を中間原料として使っていても、製造地が国内であれば「国内製造」と表示されることになる。

食品表示の基本は、使用重量の一番多い原料について、使用量順に原産地を表示するというものだ。わかりづらい「例外規定」ができることで、消費者が手にした食品と表示された情報が必ずしも一致しないこととなる。

このように複雑な表示ルールが、消費者の理解を得られるか極めて疑問である。また、現状のルールでも加工食品で「国産原料使用」を謳うことは可能である。全ての加工食品を対象とするための代償として導入される例外規定は、「国内製造」や「輸入又は国産」等の曖昧な表示を氾濫させ、これまで積極的に国産原料を使用して消費者の支持を得てきた生産者や事業者の努力が報われないものになる心配もある。

■行政の監視と食の信頼

「消費者が必要とする情報をわかりやすく伝える」ことは、事業者の責務であり、食品への表示は有効な情報伝達手段である。その場合の食品表示は、事業者と消費者の約束であり、表示された内容は適切で正確であることが絶対条件となる。そのためには、事業者の努力とともに行政による適切な指導や監視も不可欠である。

加工食品には、「食品表示法」により、名称、使用原材料、内容量、賞味(消費)期限、保存方法、製造(販売)者、アレルギー情報、原料原産地、栄養成分等、様々な表示が求められているが、行政による監視は、これらの表示が商品にルール通りに記載されているか、記載されている表示がその商品の情報として正しいものかを確認することになる。

商品への表示の有無は目視で確認ができるが、情報として表示内容の真正を確認するためには、仕入れにかかわる記録、さらには仕入れ先ルートを遡及しての調査を必要とするなど簡単ではない。

現行のルールにおいても、食品表示法違反として産地の偽装を断定するためには、行政職員の立入り検査とともに科学的な産地判別技術も活用するなど、相当の労力と時間を必要としている。

■米の産地調査でも4カ月半かかった

今年2月、ある週刊経済誌がJA系の米卸業者が国産銘柄米に中国産の米を混ぜて販売していたと報じた。これが事実であれば、農協が出資する生産者に近い事業者が国産米を偽装していたということになる。事態を重視した農水省は直ちに立入検査を実施した。結果、農水省は、6月末に、米卸売業者が法に抵触する行為を行った事実は確認されなかったと公表したが、最初の報道から4カ月半が経過していた。

調査に時間がかかっていることを非難しているわけではない。米は「米トレーサビリティー法」により、取引の記録と保管が義務付けられている。その産地についても、違反を確認するのはこのように難しいということだ。米以外であれば、調査はさらに困難となる。新たに導入しようとしている可能性表示は、過去の実績やこれからの計画を表示の根拠として認めており、これの真正を行政が監視することは、実効性の面で疑問をもたざるをえない。

■行政の監視は行き届かない

表示を法律で義務づけるということは、正確な表示をしなければ法律違反としてペナルティーが科せられるということであり、事業者にとって義務化は非常に重いものとなる。筆者は、農林水産省に在職中の平成13年から約10年にわたり、当時のJAS法に基づく食品表示の監視業務に携わっている。この間、牛肉、米、うなぎ、竹の子、アサリ等々、様々な産地表示の違反を摘発してきたが、これらは食品偽装として当時大きな社会問題ともなっている。

偽装の動機は様々だ。始めから不当な利益、あるいは不良量在庫の処分のために計画的に行われたものや、納品先との契約の数量が間に合わずに一時しのぎに他産地の商品で補った例もある。動機はともあれ表示偽装は絶対に許されない。しかし、偽装が発覚した場合の影響は大変大きく、偽装がきっかけで倒産した会社も少なくない。職を失った多くの従業員とその家族がいる。責任を感じた経営者、工場長、担当社員、下請け業者など自ら命を絶った者もいる。事業者にとって食品表示とはそういうものだ。

全ての加工食品を対象とすることが目的化し、そのための様々な例外規定を設けるなど、実効に乏しいルールのためのルールは、行政の監視が行き届かない事態も想定されモラルハザードを招く懸念もある。結果、消費者の食に対する信頼を損なうことになるのではないかと心配している。

食品表示法は、「自主的かつ合理的な食品の選択機会の確保」という食品表示の役割と、「消費者利益の増進」とともに「食品の生産流通の円滑化」「消費者の需要に即した食品の生産の振興」に寄与することを目的としている。

「消費者委員会食品表示部会」では、消費者が知りたい情報を正確に伝え、「消費者の選択に資する」という本来の食品表示の基本に立った審議が行われることを期待したい。

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中村啓一(なかむら・けいいち)

公益財団法人食の安全・安心財団 常務理事・事務局長

1949年生まれ。1968年農林省(現農林水産省)に入省。主に、食品産業・食品流通関係行政を担当。2008年の事故米不正流通では、チーム長として事故米の流通ルートの解明を担当。2011年に退官。現在は、公益財団法人食の安全・安心財団の常務理事・事務局長として、食に関わるリスクコミュニケーションの研究と実施を中心に活動。共著に『食品偽装・起こさないためのケーススタディ』(ぎょうせい)、著書に『食品偽装との闘い』(文芸社)がある。

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(公益財団法人食の安全・安心財団 常務理事・事務局長 中村 啓一)







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