「強欲株主」が企業を弱体化させる(澤上篤人) – 日本経済新聞

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澤上篤人氏(撮影:大沼正彦)

澤上篤人(以下、澤):今月は草刈に、たっぷりと語ってもらうことになる。何しろ、米国では株主要求が強まるあまり、企業経営をズタズタにしてきているのだ。

 その辺りのひどさ加減を、運用の現場から見て冷静かつ客観的に指摘できる人となれば、世界的にもそう多くない。その点、草刈は「さわかみファンド」という本格派の長期運用ファンドの責任者だ。日々の企業リサーチを通して、企業経営がどれだけゆがめられているのかを目の当たりにしている。その上でのコメントだから貴重だ。

■株主資本主義は限界近い

草刈貴弘(以下、草):日本でもスチュワードシップ・コード(投資家規範)やコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が策定され、企業は株主との対話が特に重要視されるようになりました。その後の対応の変化を目の当たりにすると、良い面もあるが将来問題になるのではないかな、と思うことも出てきています。

 「企業は株主のもの」とまでは言っていないけれど、役員報酬がいかに株主利益、つまりは「株価」に連動するかという点にフォーカスされている気がします。もちろん、企業価値が上がることで株価が上がればよいのですが、どうも株価を上げることが経営者の仕事であるかのようになっていくような気がしてなりません。

 いかに優れた技術を持つ企業であっても、時代に合わせた戦略の変更が必要で巨額の資金を投入しなければならない時があります。デジタル化の波の最中に業態変化できずに沈んだ米イーストマン・コダックや、AI(人工知能)の先駆けを行っていたにもかかわらずクラウドの波に乗り遅れた米IBMは反面教師です。将来への投資以上に配当や自社株買いに回した結果が5年先、10年先に表れてきたのです。

澤:はっきりしているのは、「企業は株主のものである」の論理を究極まで推し進めている米国では、多くの企業が弱体化し、持続的成長どころではなくなっていることだ。やれ配当だ、やれ自社株買いだで、企業の内部留保をどんどん取り崩させている。

 その横で、強欲株主たちは長期視野の研究開発などの投資は、目先の利益につながらないといって削り落とさせている。それどころか、M&A(合併・買収)やレバレッジドバイアウト(LBO、相手先の資産を担保にした借り入れによる買収)などで短期的に利益を積み上げるように迫る。

■日本にもあしき伝播が

澤:厄介なのは、学者先生らが米国での現象は何でもかんでも日本へ導入すべしと主張することだ。例えば、日本企業のROE(自己資本利益率)は低過ぎる、米国レベルまで高めるべしと迫る。

 ROEを高めるには、色々な経理処理の方法がある。どういう方法を採ってROEを高めているかをチェックすれば、その企業がどのような長期的な成長戦略を立てているかすぐ分かる。

 例えば、長期的な投資戦略など捨てて、内部留保を自社株の買い入れ消却に回せば、ROEは跳ね上がる。短期志向が極まりない手法で高めたROEの数値をもって、日本企業のROEや株主重視の姿勢は高まってきたと学者先生は言う。

 その企業が持続的な成長をするのに必要な先行投資よりも、単にROEを高めたという現象をもって良しとする風潮など、もっての外である。

草:一時期は、社債を発行してそれを原資に自社株買いを行い、ROEの向上を目指すということが行われていました。株主の要求リターンを金利に例えるなら、低金利の今はお金を借りて株を買った方がROEを上げられるし金利負担も抑えられ、一石二鳥のように思えます。

 しかし、そのような企業は資金があっても企業価値を向上させる施策が見つからないと言っているようなものです。今数字が良くても、将来の企業価値向上に疑問が生まれてしまうのであれば先ほど紹介した企業のようになってしまうかもしれません。

さわかみファンドCIOの草刈貴弘氏(左)

澤:ところが、年金など機関投資家もあまり表面には出さないが、米国直輸入の株主重視経営を支持する。企業が配当金を高め自社株の買い入れ消却を積極化すれば、株価は上昇するから歓迎というわけだ。たとえ、そういった短絡的な経営戦略が企業の長期的な成長の芽を摘んでいっているとしても、運用者たちは目先の運用成績の方が大事とするからだ。

 どう考えても、おかしな風潮である。では、どうしたらよいのか?

■生活者株主が取って代わる

澤:米国でひどくなっている強欲株主による企業経営の短期志向化に歯止めをかけるには、生活者株主をどんどん登場させるのが一番である。強欲連中に対するカウンター勢力として、一般生活者が企業の持続的成長を力強くサポートしていくのだ。

 一般生活者一人ひとりの資金力は大したことないが、その数は圧倒的に多い。多くの生活者が企業の応援団として株を買っていけば、全体で見れば強大な株主の登場となる。

 まして生活者株主は、世の中から消えてなくなっては困る企業を応援しようとする。そこで企業の取捨選択が進む。その上で、株価の安い時ほど応援のしがいがあるといって買いに行く。

草:こういう話が出ると、日本ではよく「こういうことは国がやるべきだ」となってしまいます。年金が私たち生活者のために運用しているのだから、それを担えるはず。けれど世界中の年金自体が機関投資家になってしまって短期金融資本主義、強欲資本主義の権化になっています。結局は自分たちで立ち上がるしかないのです。

澤:この流れを強く太くしていけば、株価が暴落するたびに、生活者株主の応援買いがどんどん集まるようになる。気が付いたら応援企業にとって、最大の株主として納まっていたことにもなる。これが、米国流の悪弊に対する最強の対抗策となる。

 面白いのは、生活者株主は応援する企業を厳しく選ぶところだ。生活者が大事と思える企業に対しては、応援株主としてその企業の持続的成長を強く支えていく。一方、どうでもいい企業は株主資本主義の餌食となって解体されていく。

草:欧米では社会が分断され、生活者を一つにまとめることが難しくなっています。日本にはまだ一つにまとまる要素が残っていますから、公益というか利他というか、しっかりとした資本主義を求めていけるはずです。

澤上篤人
 1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。

草刈貴弘
 2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2017年8月号の記事を再構成]

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