アベノミクスは成功、未達どっち? IFM「玉虫色の報告」のジレンマ – ZUU online

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国際通貨基金(IMF)は7月31日に日本経済に関する年次報告書を公表した。この報告書をめぐり、英有力経済紙『フィナンシャル・タイムズ』が「IMFはアベノミクスが成功したと宣言した」との見出しで伝える一方、同紙を2015年に買収した日本経済新聞は「IMFは、アベノミクスを目標未達と判定した」との切り口で伝えるなど、メディア間の解釈に違いがあり、憶測を呼んだ。

IMFは「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」という「3本の矢」からなるアベノミクスに「成功」と「目標未達」のどちらの評価を与えたのか。結論から言えば、両論を盛り込んだ「玉虫色の報告」であり、両紙とも正しかったのである。

報道にみられる相違は、メディア側が両論併記のなかから「成功」「未達」どちらを選ぶかという編集上の判断から生じたに過ぎない。表面上は正反対の結論に見えるが、報告書は二元論的な結論を出すのを避けている。

そうした意味で、IMFがアベノミクスに与えた玉虫色の評価は、日本経済に対する客観的な見解というよりは、「自由貿易・民営化・資本市場の自由化・価格決定の自由化」などを旨とするIMFの本質と、そのIMFが掲げる経済原則に近年見られる揺らぎにより、報告書ではっきりとした結論を出せないという、IMFのジレンマを反映したものだ。

なぜアベノミクスは成功なのか?

アベノミクス,成功,未達
(写真=PIXTA)

ほんの半年前までは「一強」とされた安倍晋三首相率いる政権は、一連の腐敗疑惑や慢心した閣僚の失言・失態により、人気に陰りが出始めた。同時に日本国内では、4年以上実行されてきたアベノミクスへの疑いや批判が噴出している。

曰く、「消費を盛り上がらせることができないどころか、縮小させている」、「アベノミクスで富裕層資産は272兆円と過去最高を記録するなか、労働分配率はなかなか改善されず、一般国民は経済成長の実感が持てない」、「2%の物価上昇目標が達成可能という前提に問題がある」、「アベノミクスの柱である環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の最重要メンバーである米国が離脱して、成長達成は困難になった」、「国民にバクチをさせて経済を成長させようとするカジノミクスだ」など、散々な言われようだ。

このように国内では手詰まり感をもって語られることが多いアベノミクスだが、IMFの見解はかなり肯定的だ。報告書についてデイビッド・リプトン筆頭副専務理事は、「アベノミクスは成功したものとみなされるべきで、成功しているからこそ続行すべきだ」とコメントした。

リプトン筆頭副専務理事はさらに、「アベノミクスは日本経済の状況を改善し、構造改革を軌道に乗せた。2012年の開始以来、金融緩和を成功させ、企業収益を引き上げるとともに、雇用と女性の職場参加を増大させた」と、最大級の賛辞をアベノミクスに贈っている。「アベノミクスは再充填の必要がある」と厳しかった昨年の報告書とはトーンが違っている。

この評価の背景にあるのは、「最近の日本経済の回復が、過去数年で最も強く、2017年の成長が当初予想を上回る1.3%になる」とのIMF予測だ。成長が加速し、企業がもうかり、構造改革が進展することが、IMFの成功のモノサシであることがわかる。

だが、IMFがアベノミクスを「成功」と判断した要因は、脆弱性を抱えている。報告書にあるように、日本経済の成長は、①世界経済など外因の改善による貿易の拡大と、②今年4月から執行が本格化した4兆5200億円規模の2016年度第二次補正予算によるところが大きい。

つまり、外部要因とカンフル注射でやっと1%台の成長を確保しているに過ぎない。日本経済の自律的な拡大には程遠い状況だ。しかも、報告書は「急速な高齢化で縮小する労働人口に対応するため、賃金の引き上げ・生産性の拡大・成長の加速が必要だ」と指摘している。これらの意味でアベノミクスの目標は未達なのであり、それが「成功」「未達」混在で、結論があいまいな報告書に表れている。

根源的に揺さぶられる経済学の前提

年次報告書の中でIMFは日本経済が成長するための、さまざまな処方箋を示している。しかし、すでにIMFの処方箋に従っているアベノミクスで、なぜ「出るはず」の肯定的な効果が万人の納得できる形で出ないのか、言及はない。

アベノミクスに対する評価は、「正しい」とされるIMFの処方箋の信頼性、ひいては主流派経済学の前提そのものに根源的な疑念を生じさせる可能性を秘めており、慎重にならざるを得ないのだ。それでもIMFの報告書はこうした矛盾を隠せず、行間を読めば随所に噴出が見られる。

たとえば、「労働流動性の低さ、強い安定雇用選好、過去の物価上昇パターンに基づく賃金設定などが、賃金や物価の上昇を妨げている」とのくだりがある。この前提となっているのは、「失業率が下がれば賃金が上昇する」とするフィリップス曲線理論だ。

だが、「労働流動性の高い国で失業率が低下すれば、インフレ率が上昇する」とのIMFの見立てが正しいならば、なぜ労働流動性が究極の高みにある米国で、失業率が歴史的に低い数字まで下がっているのに、賃金や物価が上昇しないのか。逆に、米国で高く、日本でも上昇する労働流動性自体が賃金上昇を阻んでいる可能性はないか。
また、緩和的な金融政策の効果に関するIMFの前提には不明瞭な点が多い。報告書は「日本は緩和的な金融政策のスタンスを維持すべきだ」として、「金融緩和がインフレ率上昇につながる」との日本銀行の立場を支持している。

だが、ここでもIMFは、黒田バズーカ砲の連発にもかかわらず、デフレ傾向が退治できない理由をうまく説明できていない。ただ、「アベノミクスの第一の矢である緩和的な金融政策は成功した」との題目を唱えるだけである。

そして、「労働流動性の低さが賃金上昇を妨げ、2%インフレ目標の達成を阻んでいる」と繰り返している。しかし、労働流動性が高い米国でなぜ賃金や物価が上昇しないのか、説明がつかないジレンマに再び陥っている。IMFの前提は、根底から揺らいでいるのである。
こうしてみると、IMF報告書のアベノミクスに関する「成功」「未達」併記には、アベノミクスと一蓮托生であるIMFの正統性や、主流派経済学の矛盾にまで議論が及ばないようにする意図が透けて見える。

アベノミクスという鏡に映したIMFや主流経済学の姿は、やつれ果て、醜悪になっている。だから、IMFはこれからも「アベノミクスは成功だ」と唱え続けるしかないのである。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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