【電子版】マーケティングの出番ですか?(15)グローバル市場で日本企業の巻き返しなるか – 日刊工業新聞

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日本の家電メーカーが苦戦している今日この頃、グローバルマーケティングの実務家や研究者の間でその原因が盛んに議論されています。苦境に立つ日本企業ではどのようなマーケティング活動がなされてきたのでしょうか?

戦後、米国製品が日本に輸入されましたが、左ハンドルの自動車や大型の冷蔵庫等、日本社会の事情に合わないものが多く高所得者を除き一般人には普及せず、力をつけた国産メーカーが米国製品をひな型として、より日本市場に適した形に改良することで成功しました。

ところが、立場が代わって日本企業がアジア諸国へ進出する場面では、日本製品の高品質、高機能を頼みに輸入国の社会事情を顧みず、市場参入がうまく行かなかった例が多々あるようです。国によっては、高品質、高機能、高価格でなく、単機能、低価格のニーズがより高く、ローテク製品の大量生産による価格競争で中国や東南アジア諸国の後塵を拝する状況に陥っています。

1990年代、米国から日本への製品輸入の圧力がかかった際、「郷に入っては郷に従え」を力説していたはずが、最近の日本は品質至上(万能?)主義から、優れたモノは世界共通(グローバル)に売れると錯覚していたのではないでしょうか?

市場のグローバル化は市場の参入が容易であることを意味しますが、そこでは透徹したブランド戦略と巧妙なローカライズが競走優位の決め手となっています。

製品の短命化―成長市場が求める意思決定スピード

先日、商品開発部門が丸ごと中国企業に買収された日本家電メーカーの方にお会いした際、「中国企業の新体制の元では、意思決定がもの凄く速く経営が大きく変わった。」と感嘆されていました。その中国企業では、あるアイデアが提案されるとほとんど即日で意思決定されているのに対して、以前の日本メーカーでは担当者の提案が、係長→課長→部長→本部長→担当役員→役員会という承認プロセスに1カ月を要していたとの事でした。

製品ライフサイクルが5~10年と長い製品の意思決定にあっては、決定に時間を費やしても先行者に追いつくことができますが、1~3年の短い製品では、決定の速さ、つまりスタートダッシュが雌雄を決することが多々あります。成長著しいグローバル市場においては、マラソン型のスタートではなく、短距離走のスタートダッシュの集中力と英断が求められます。

マーケティングの「ファーストペンギン」

日本企業は製品を改善して品質を高めることを得意としています。また、人々の要求するものを作り出すことにも長けていますが、反面、全く新しいもの、独創的なものはあまり得意ではありません。

マーケティングの市場調査で「消費者に製品ニーズや問題点を聞く」といったプロジェクトが数多く行われていますが、これだけでは製品改良はできても画期的な製品はなかなか生まれないのではないでしょうか?

アップルやグーグルなどの例を挙げるまでもなく、市場を創造する革新的な製品やサービスの開発には、やはり独創的なアイデアを生み出し様々な課題を克服しつつそれを実現するビジョンと経営力、そして、創造性を育む企業風土として、新しいことに挑戦し積極的にリスクを取るという“ファーストペンギン”(魚を獲るために一番に海に飛び込める勇気あるペンギン)の精神が必要不可欠です。

フレキシブルなマーケティング活動

現在の日本の企業は、失われた20年による高齢化から経営が硬直化しており、フレキシブルな組織、言わば組織の若返りが大きな課題となっています。高度成長の時代は終身雇用、年功序列の制度を基に、若年層を底辺に「ピラミッド型」の年齢構成を築いてきましたが、低成長、少子化の続く中、いつの間には「つぼ型」に変じてしまい、ゼロサム経済下における保守的な経営も相まって、ますます革新性や挑戦意欲に欠けた体質に陥っています。

ある大学の理事と対談した時に、「日本企業の雇用慣行では、一度就職した人が会社を辞めて大学に再入学して学び、再び企業に戻るのはとても困難です。」と話されていました。また、現在でも大学卒業後に正社員として就職できた人と、正社員として就職できずその後に非正規社員として働く人との間に不平等感があり、組織の機動力、活力を削ぐ原因にもなっています。この雇用形態は組織改革を更に難しいものにしていますが、グローバル市場における競走環境下では、組織改革を先送りにする時間的余裕は残されていません。

そのような情勢の中、企業内部からの改革アプローチでなく、外部の力を取り込むオープンイノベーション(脱自前主義)が注目されています。ベンチャー企業の持つニッチではあるものの独創的な製品、サービスや技術、そして彼らのファーストペンギン精神は、現状の閉塞感を打破する刺激となります。また、海外企業のM&Aや提携等において海外企業の実力主義に基づく経営手法の部分的な導入など、グローバル市場に求められるフレキシブルなマーケティング活動の展開に向け、組織を若返えらせる新しい取り組みが行われています。

“欧米に追いつき、追い越せ”をスローガンにひた走った20世紀後半を経て、新興国に追いつかれ追い抜かされつつある21世紀初頭の現在、歴史は繰り返すのか、はたまた歴史に新たな1ページを刻むことができるのか、日本企業にとって今まさにグローバルマーケティングの出番です。

(『新製品情報』2016年4月号掲載)

(毎週土曜日掲載)

【著者紹介】

上脇 辰三

(マーケティング・インテグレーター)

1952年生まれ

法政大学工学部経営工学科卒業(オペレーションズ・リサーチ)

外資系企業(American Express International、Nielsen、Ogilvy & Mathers、REPUCOMなど)で30年以上マーケティング、マネージメントに携わり、現在、株式会社ウェルコインターナショナル、株式会社サイバーネーションなどの顧問。日本マーケティング学会会員、日本マーケティングリサーチ協会 国際委員会委員長ライススタイル研究会幹事






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